久しぶりの更新です。いつまでも炎上記事をTOPにしておくのも恥ずかしいので(笑。
もう気付いたら2016年です。
先日めでたく第一子も授かりまして、おむつ替えや沐浴のスキルも身に着けました。
今回はちょっと3DCGアニメについて、キャラデザイナーの観点から色々お話してみたいと思います。
あくまでも傍で見たりやり取りした感想ですので、間違った事や勘違いなどもあるかもしれません。ご容赦ください。
さて、1月9日より、全国でサンジゲンさんの10周年記念アニメ、『ブブキ・ブランキ』が放送開始になりました。
最初に企画のお話を頂いたのはもう2年ほど前でしょうか。
当初は手描きアニメの予定でしたが、紆余曲折を経てフル3DCGキャラクターでの制作となりました。
これは〝セルルック″と呼ばれるCG処理で、輪郭線を描写する事でセルアニメの様な見た目を実現する物です。
初めて見たのは昔ドリームキャストで発売された「ジェットセットラジオ」というゲームでしたでしょうか。
既にブブキをご覧になられた方もいらっしゃるかとは思いますが、本当に近年この技術の進歩って凄いですよね。
ただ、一言にセルルックと言っても、スタジオやディレクターによって表現方法が色々あって
それもまた面白いと感じました。
そこで、3DCGに関しては素人の僕ですが、ここ数年セルルックのアニメにデザインで関わる事が増えたので
ちょっと振り返ってまとめてみました。
(当時関係者から見聞きした情報なので間違ってたらそっとメールで教えてください)
最初に僕のキャラデザインでフルCGのアニメになったのは、
2010年にデビューしたバーチャルアイドル『メーウ』のPVでした。
こちらはスタジオカラーさん制作。当時からもう既に劇場エヴァンゲリオンで
セルルックCGのノウハウを積んで居り、そこの若き腕利き職人さん達が
フルCGで可愛らしさを追求した作品です。女性キャラクターの動きや肌の柔らかさをCGで、
しかもセルルックでここまで描けるのかと大変驚きました。
これは大部分手付アニメだと思いますが、
一部モーションキャプチャー(実際の役者の動きをインプットする装置)で取り込んだデータに、
3DCGアニメーターが細かく手を加え、よりアニメ表現を強調した手法です。
どことなくリアルで生めかしい動きなのは、フレーム数が高いのもありますが
そのためですね。ダンスムービーによく合っています。
次が、2012年発売された『ファイアーエムブレム覚醒』のPV。
こちらはアニマさん制作。このタイトルではセルルックではありますが、べた塗りではなくテクスチャに
イラスト調のタッチが少し入ってるのが特徴です。
こちらの人物アクションもモーションキャプチャーによるデータを最適化していく方式だったと記憶しています。
アニマさんのスタジオカラーさんとの違いは、イラストをCG化する事と、手描きアニメの表現に落とし込むと言う違いでしょうか。
スタジオカラーさんの場合は、視聴者の見慣れた手描きアニメの3DCGによる表現であるのに対し、
アニマさんは3DCGそのものの魅力を追求するスタジオのような気がします。
2013年、スマホゲームの『魔神ステーション』PV。
残念ながらゲーム自体は企画がお蔵入りとなってしまいましたが、
PVのクオリティは大変素晴らしいものでした。こちらの制作はスタジオカラーさん。
劇場エヴァンゲリオンの三作目の制作が終わった後だったと思います。
『メーウ』から更に進化して、手描きアニメーションライクを突き詰めています。
アニメーションのフレーム数をあえて落とすとCGっぽさが消えるんですね。
手描きアニメに慣れた視聴者の既視感を利用したものでしょうか。不思議ですね。
そしてこれはモーションキャプチャーを使用せず、ほぼ手付けによるアニメだった気がします。(後で確認します)
手付けアニメとは、体の四股、胴体髪の毛、服の揺れや目や口の動きに至るまで、
事細かにすべて手作業で設定し動かしていく地道な作業です。(自動制御もしたりしますが)
僕も趣味程度にフリーソフトでキャラを動かそうとした事があるのですが、
これがまたとんでもなく面倒な作業で、手描きとはまた別の膨大な神経と労力を費やす物だと感じました。
※スタジオカラーさんのセルルックCGアニメの最新作は、アニメーター見本市で視聴できる
『カセットガール』が最新作です。もう、極めてますね。付き詰まってますね。素晴らしいです。
同じく2013年、『リリィ・ベルガモ』PV
こちらの制作はジョジョOPでも有名な神風動画さん。
けれんみの効いた力強い映像表現を得意とするスタジオです。
短い映像でも、何度も見たくなる不思議な魅力を放つ作品を作り出すんですよねw
大好きなクリエイター集団の一つです。
こちらもアニマさんと同じく、表面を光沢処理したりテクスチャにタッチを加えたり、
イラストの魅力をCG化するという指針の様に思います。「妥協は死」!は水崎さんの掲げる言葉。
2014年、劇場用短編ムービー『どーにゃつ』。
ギャザリングさん制作。手付アニメーションですが、こちらはフルフレームで滑らかに動かしています。
関係ないですけどこのアニメで声優に初挑戦し僕も若手アイドル声優デビューしたはずなんですが、
その後オファーは特に来ませんでした。
コミックス版のフルアニメ化、待望なのでどこかお願いしますほんと
原作料もいらないので!
2015年、『ファイアーエムブレムif』のPV
こちらも、『ファイアーエムブレム覚醒』に続きアニマさん制作。
前作から更に表現もブラッシュアップされ、鎧の光沢など違和感なくセルルックと融合させて
「イラストを美しく動かす」と言う事に重きを置いて制作されています。
ここまで、どーにゃつを除き原作がゲームであるという事が非常に重要な意味を持っている事に気付きます。
これまでのキャラデザインは基本ゲームの為に作成された物で、CGアニメの為のデザインではありません。
ゲームの為のデザインとCGアニメの為のデザイン手法には明確な違いがあったりするのです。
ファイアーエムブレムの場合はプラットフォームが3DSで解像度が低めと言う事もあり、
例えばゲーム中、キャラが激しいアクションをして髪の毛と体がぶつかって体を突き抜けても
大して気にならないと思います。(勿論最低限違和感が無いように調整されております)
が、それ自体がメインである映像作品ではそれが一切許されませんので、
CGアニメーターさんは事細かに髪の毛の束ごとにアニメーションを付けなくてはなりません。
上動画の青い髪の毛のアクアというキャラの様になが~~い髪の毛が激しく動く場合、
アニメーターさんはそれはもう大変な労力を費やしたであろうと想像できます。
しかし、あくまでもゲームのキャラクターである事が優先であり、CGムービーありきでデザインをすると
表現の幅が狭まってしまいますので、「が、頑張ってください…」と応援する事しか出来ません。。。
まあ、TVシリーズよりは短い尺なので、カット割りやアングルで構造的に不都合な部分を
見えないようにするなど、時にはアイデアで乗り切ったり、時には覚悟を決めて根性だけで作り上げたりし、
最終的に美しい映像として完成させる訳ですね。
が、尺の長いTVシリーズだとしても、出番の少ないキャラクターや演出次第でなら
多少無茶なデザインが出来たりもします。そこは現場との相談ですね。
2016年、『ブブキ・ブランキ』
こちらの制作は『蒼き鋼のアルペジオ』等で有名なサンジゲンさんです。
もはやセルルック3DCGでは国内トップクラスのノウハウを積んだ実績のあるスタジオです。
今回はショートムービーではなく、フル3DキャラによるTVシリーズアニメ。
僕はキャラの設計をするだけなので偉そうな事は言えませんが、長旅ですね。
これまで散々ムービー制作スタッフの皆様にMTGで苦い笑顔を頂いてきました故、
僕の無い頭でもノウハウが少しは溜まってきたと挑んだのですが、やはりなかなかこれも大変で。
とにかくアニメーターさんに余計な負担をかけずに、尚且つデザインとして豪華に見え成り立つもの、
それでいて3DCGの不得意とする所を感じさせず、逆に利点を伸ばすデザイン、を指針として頑張りました。
しかしこれまでの「ゲームありき」ではなく、最初から「CGムービーのためのデザイン」で、これは初になります。
そしてこの作品はすべて手付けによるアニメーションです。
前述しましたが、手付けアニメーションはホントに大変な作業です。
棒立ちしてるキャラの素体に生気を吹き込むには、腕、足、目口、指先や髪の毛の先、
はたまたそれに追従する服のしわや小物に働く慣性運動まで、
カットごとの全てにおいて事細かな設定をしていかなけれないけない作業です。
(もちろん自動制御もしたりしますが)
CGだから楽、と言う事は実は決してなく、折れない根性と絶妙なアニメーションセンスを必要とし
細部まで正確に書き出されるCGモデル故に隅々まで手が抜けない、
それがCGアニメーションなのだと感じました。
頑張りすぎて、顔の半分が一時期麻痺しちゃったCGアニメーターさんを僕は知ってます
髪とかは物理演算でいけんじゃね?って思う方もいるかもしれませんが、意外と物理演算って
モデルがパタパタガチャガチャ動いてしまってキレイにならないんだそうです。
いや、慣性がリアルすぎて誇張表現である手描き風アニメとは全く合わないと言う方が正解かもしれません。
もしかしたら一旦物理で動かした後それを調整するという手法もあるかもしれませんが。
で、そんな中短期間に20分強のCGアニメを作らないといけない状況、量産体制をサポートするため、
まず前述のアクアの長い髪の毛、長い腰布みたいなキャラ設定は即刻NGになる訳ですね。
(制作時間が膨大にあればきっとやってのけてしまうでしょう)
面白いのは、過去に手描きアニメのキャラデザインを手がけた時は
「揺れ物・長物(髪の毛やマフラーやマント)がアクションで映えるから欲しい」
「あまり細かいデザインだとアニメで描くのが大変なので簡略化してほしい」だったのが
3DCGの量産体制現場では「揺れ物・長物・マントは干渉してしまうのでなるべく無しで」
「ある程度色数を増やしたりディティールを細かくしてもOK」と真逆の事を求められた事でした。
でも、ゲームのモデルではまた逆に揺れ物・長物OKになるんですよね。カッコよさ優先なので。
まあゲームはゲームで関節が多すぎるとハードの性能の問題で出来ないとか色々あるんですが、
話し始めると長くなるのでそれはまたいつかの機会に…
最後についでで、キャラクターの顔ですが、現状3DCGモデルは
煽りや俯瞰の角度に弱いことが知られています。特に顎回りですね。
僕は割とリアルな骨格を意識したデザインを心がけているのですが、熟練のモデラーさんの手にかかっても
それでも2次元の設定を忠実に再現しようとすると煽り・俯瞰で顔は若干崩れてしまいます。
そういった“デッドアングル”を回避したり、サンジゲンさんの様にコミカルな表情を表現する時
どうするかと言うと、シーンごとに顔のモデルをカッコよくなるまでグニャグニャ動かす訳です。人力で。
リグ調整とも呼ばれる作業で、これもアニメーターさんの感性頼りなので個性が出る部分ですね。
CGでも手描きでも最終的にアウトプットされるものは同じ平面の映像作品ですが、
制作手段の違いでここまでデザインの方法が違う二通りを体験できたのは大変貴重でした。
どちらが良い・悪いでは無く、3DCGアニメは出来ない事もあるけど、
代わりに手描きアニメでは難しい映像表現も可能にします。
しかしながらいつか3DCGアニメの為のエンジンが高性能化していけば、今の不得意とする事も
容易にしてくれる時代が来るかもしれません。
うーん、これから先の3DCGアニメーションの現場、ますます楽しみです。
2015年『ウルトラスーパーアニメタイム』ジングル
公開されたのは『ブブキ・ブランキ』よりも少し前ですが、デザイン作業時期はかぶっておりました。
こちらもサンジゲンさんで、同じくCGムービーありきでデザインをしました。
ここまで書いて、デザイナーの観点から3DCGアニメーションの利点を挙げてみますと、
◆デザイン・ディティールを精細に出来、豪華な画面作りが可能となる
◆作画崩れが起こりにくく、一定のクオリティを保証できる
◆キャラクターの基本行動をバンク化出来る
等が主立った有利点で、逆に現状での不利点は、
◆体にかかるロングの髪の毛が難しい
◆丈の長い、足にまとわりつくスカートや肩にかかるマントが難しい
◆関節部分に目立つ柄や、動かすと干渉しあってしまうオブジェクトが置けない
などでしょうか。
以上、素人目線から見続けてきた三者三様で作り上げられているCGムービーのご紹介でした。
CGアニメで手間のかかるデザイン=コスト増大に繋がりますので、
デザインの段階で気を付けなければいけない事、またそれに縛られ過ぎない事、
そのバランスが非常に大事だと痛感しております。
しかし最先端の技術を間近に見、関わる事が出来たのは大変刺激的で勉強になる数年でした。
正直まだまだ知らないことが多すぎるので、今度ゆっくりCG[アニメ技術について
もっと沢山聞いてこようかと思いますw
実はまだこういった水面下で動いてる企画がいくつもありまして、
いつか日の目を見て皆様に楽しんでいただけるのを心待ちにしています。
最近のコメント